東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)41号 判決
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〔判決理由〕本願実用新案の要旨と引用例の技術内容とを比較すると、両者は、本願実用新案においては芯の端縁をかがり縫いしたに対し、引用例においては、端縁の直下を横方向に縫つたものである点において相違するのみであり、他はその構成において全く異なるところがないこと明らかである。しかして、布等の縫製に当たり、その切断面の端縁を糸等によりかがり縫いすることが、普遍的な縫製技術として、本願実用新案出高前はいうに及ばず、古くから一般に行われていたことは、本件口頭弁論の全趣旨に徴し明らかなところであるから、本願実用新案において、引用例における端縁直下を横方向に縫うことに代えて、端縁にかがり縫いをしたことをもつて、そこに旧実用新案法の対象として考案というに値する程の新規な技術が存在するものということはできないことは、多言を要しないところである。なお、原告が石油コンロに用いられる芯の端縁を硝子繊維を主とする撚糸でかがり縫いしたことのもたらす作用効果に関して主張するところは、要するに、本願実用新案の出願当時には、石油コンロの芯の火口は、端縁の繊維が刷毛状に開いている方が良いとされており、火口縁を繊維が刷毛状に開かないようにかがり縁いしてしまうことは全く考えられていなかつた、との事実を前提とし、硝子繊維製芯で火口端縁が刷毛状に開いたものを製作すると、器具への装着、包装、輸送及び販売の過程において火口繊維が折損するという欠点があるため、その防止のために、火口端縁を可撚糸でかがり、着火後間もなくしてかがり糸を焼失せしめ、火口の硝子繊維を刷毛状に開かせる方法、あるいは、引用例のように、火口の近くを横方向に縫い、火口の繊維の開き方を少なくして前記の欠点をまぬがれようとする方法がとられていたが、本願実用新案は、「硝子繊維製芯の火口端縁を、硝子繊維を主とする撚糸によつて、刷毛状に開かないようにかがり縫いする」ことにより、引用例等における刷毛状に開いた火口の芯の有していた多くの欠点を解消させたものである、というに帰するところ、原告が主張する右前提事実については、これを認めるにたりる何らの証拠もなく、かえつて、本願実用新案の公報の記載、とくに、その実用新案の説明のうちの「一般に……石油コンロの芯では上下端縁の切口のかがり縫……や環状にした場合のつなぎの縫合せ……等には綿糸、麻糸、スフ糸等の可撚性の糸類が用いられている。しかるにこの糸類によつて縫合した芯は使用によつてたちまち燃え尽して縫合前に戻り、特に切口等ではかがり糸が失われて細い繊維が散乱し、油の吸上げ悪く燃焼力が低下する欠点がある。」との記載によれば、右のような事実はなく、本願実用新案出願当時においても、火口端縁をかがり縫いしたものが存在し、そのかがり縫い糸が使用時にただちに焼失してしまうことが欠点(技術的課題)として知られていたものと認めることができるから、前記の事実を前提として原告が主張する作用効果については、本願実用新案の説明書中にこれについての説明がないこととも合わせ考え、到底、そのすべてを本願実用新案のもたらす新らたな作用効果とみることはできず、本願実用新案のもたらす作用効果としては、かがり糸の焼失による前記欠点を解消することに関する作用効果に限られるとみるのが相当であり、その作用効果は、結局は、引用例における硝子糸の使用と縫製上の周知技術である端縁のかがり縫いの技術とを硝子繊維又はそれを主体とする芯体に応用した場合に必然的に何らの技術的工夫を用いるまでもなく生ずる作用効果に他ならないことその事項自体から明らかなところであるから、本願実用新案に原告主張のような作用効果があるとし、その故に、前認定を覆えすべきものとすることのできないこともまた多くの説明を要しないところというべく、他に右認定を左右するに足る適確な証拠はない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、本件審決が、引用例の芯が本願実用新案出願前公知であり、また、布等の縫製においてその端縁をかがり縫いすることが古くから普通に用いられている手段である以上、本願実用新案は、旧実用新案法第一条にいう登録要件を欠くものであるとしたことは、その説示にみる若干の不十分さにかかわらず、結局正当であり、原告主張のような違法の点はないものというべきである。よつて、原告の本訴請求は棄却する。
(三宅正雄 杉山克彦 楠賢二)